ドリフに潜むファンク(再掲)

その昔、私サイモンガーが開設していた「ファンク・バリウム・オンライン」というサイトの目玉として「日本に潜むファンク」というコーナーがあったのですが、そこで最初に取り上げたのがこのドリフターズでした。

とりわけディスコ・ブームに乗って作られたあたりの一連のシングルに潜むファンクネスは、幼い私にファンクのイロハを叩き込んでくれました。「早口言葉」「ヒゲダンス」といった超有名曲もさることながら、下に上げた楽曲での、布地を通して染み出して来るようなファンク汁は、唯一無二のものだったように思います。

以下、「ファンク・バリウム・オンライン」から、「日本に潜むファンク~ドリフターズ編」を、なるべく当時のまま(正直、文章のテンションが高すぎて恥ずかしいのですが)転載します。

「ドリフの英語塾」
最もファンクを感じさせる楽器は何か?と問われたら、あなたは何と答えるだろう?鍛え上げた親指を力任せにたたきつけ、アンプリファイドされた地響をおこすエレクトリックベース?本能のままに叫びを上げる際、自らを鼓舞するかのごとくヒットされるパーカッション?OK、OK。すべて正解だ。しかし、この楽器を忘れてもらうわけにはいかない。その名は、クラヴィネット。
クラヴィネットは、基本的には弦を打鍵することにより発音するピアノタイプの楽器で、ギターに近いサウンドをもつ。そのサウンドを代表するナンバーには、「迷信」(スティービー・ワンダー)や、「マシン・ガン」(コモドアーズ)などがあり、ファンク・フィールを演出するには格好の楽器として高い人気を誇る。
そのクラヴィネットを大胆に取り入れた、ドリフ・ファンク(以下D-ファンク)のマスターピースともいえるのが、この「ドリフの英語塾」である。
イントロから心地よいバンド・ユニゾン。このあと展開されるファンク絵巻をいやがうえにも期待させる。すると、さっそく火を吹くワウ・クラヴィネット。アナログシンセのコミカルなイフェクツに導かれ、いよいよこの男の登場だ。Please Welcome! カートーチャー!
イントロでのワウ・クラヴィが歯切れの良いカッティングに変化する1コーラス目、まず登場した加藤茶が、8小節後にあらわれる男を、リスペクツたっぷりに紹介する。「地震、雷、怒りのドラゴン」最大級の賛辞だ。その怒りのドラゴン、いかりや長介の登場により、ファンクはいよいよ加速する。
あなたは誰だは (Who Are You?)
僕は太郎だ (I Am Taro)......
昂りきった熱を抑えることも許してもらえない、いかりやが主導するコール&レスポンス。D-ファンクの真骨頂がここにはある。岩石のように固く、ムチのようにしなやかなグルーヴが、この後もクラヴィネットとアナログシンセを中心に展開される。2分57秒という短い時間の中にテイスト・オブ・Dを凝縮した宝石のようなファンク。ショップに並ぶことはまれだが、見つけたらぜひゲットしてほしい。

「ドリフのバイのバイのバイ」
上記「英語塾」のアザー・サイドに収録されているナンバーだが、これも熱い。なぜなら、この曲でフィーチャーされている一人の男が、いわば「Dにファンクを持ち込んだ」張本人だからである。
志村けん。この名前を聞いて冷静でいられるなら、そいつがDを語ることは許されない。
テディー・ペンダグラスの"Do Me"を、日本一有名なベース・リフにした男。
ウィルソン・ピケットの"Don't Knock My Love"で全国の小学生に「グルーヴ」の何たるかを説き続けた男。
その名の前に、いくつの冠を与えても足りぬ、(キングをいかりやだとすると)エース・オブ・ドリフ、志村けんが、おそらく初のエクスプロードを見せたナンバーが、「ドリフのバイのバイのバイ」だろう。
曲が始まった途端、爆発する志村の「ワアアアアアアアオ!」。ワウギターの作り出す粘り気のあるグルーヴが霞むほどのインパクトだ。あっけにとられる間もなく炸裂する「グエエエエエルオオオオップアアア」というシャウト。JBの「ゲロッパ」とはまた違う意味で高揚させられる。このパワーには、さすがの加藤茶もあてられたのか、1コーラス目、少々チルアウトしたヴォーカライゼーションをみせる。その間を縫うようにシャウトし続ける志村。D-ファンク得意の全員ユニゾンをはさみ、ギターソロへ。しかし、そこでおとなしくしている志村ではない。「ワアアアアオ、ダイナマーイト!」ヘイ、ダイナマイトなのはあんただゼ志村。
と、語っても語り尽くせぬ、いわばマグマのみなぎる地底からの燃ゆる一撃が、この「ドリフのバイのバイのバイ」。そもそもこの曲とカップリングされているのが「英語塾」ってのは、何か企みに満ちたドリフからの挑戦状のような気さえしてくる。「D-ファンク入門用」としてはあまりに濃いシングルだ。

「のってる音頭」
ここで意外なナンバーを。この曲に感じるファンクネスは、上2曲とは似ても似つかぬものだが、充分に語る価値はある。
曲自体は日本民謡のカバーという、ドリフお得意のものだが、この川口真による編曲は余りにトビすぎだ。イントロからサンプリング的にオーケストラを使用、その間隙をぬって登場する祭囃子のごく短いパッセージの繰り返しは、あたかも後のボム・スクワッドの登場を予期していたかのようである。
「ソーレのってる音頭です!」フレイヴァー・フレイヴを思わせる加藤茶の、いわば決意表明ともいえるシャウト。それに答えるように「ハイキタカサッサ」とチャントする4人。ノイジーなバックトラックが突如ブレイクし、加藤茶が叫ぶ。「ホウラ!」続くライムは、ステレオの前の私たちにむかって吐き出されるアジテーション。そして、2コーラス毎に挿入される場違いなゴーゴー・ビート。数々のギミックをはさみ、ラスト近くにいかりやがラッピン。「やっぱりハズレだよー」チャックDなどどこ吹く風、と言わんばかりのドスの効いたライム。全盛期のPublic Enemyと戦えるのがドリフだけであることを改めて認識させられる。ラストの「オソマツ!」は、逆説的に他の腰抜け共にむかって吐かれているのだ。さて、われわれは、ドリフターズに「オソマツ!」と言われないような人生を送れているだろうか?

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2020.4.3 追記

という、1990年代後半に20代だった私がその若さに任せて書いた記事でした。

なかなか今読むには厳しいものですが、2018年に「SAPPORO POSSE」さんが、この「D-FUNK」のコンセプトを受け継いで、しっかり現代の文献としてまとめてくれました。
こちらを読んでいただくのが圧倒的におススメです。

SAPPORO POSSE

志村けん 〜日本にファンク・ウィルスをばら撒いた男〜 

http://www.sapporo-posse.com/d-funk/


そして、志村けんさん、笑いと音楽で我々を導いてくれてありがとうございました。